イーストの臭いがパンに残る
パンを作り始めた当初、パンにイーストの発酵臭が残る事に気付いた。当時のスキルでは解決策が分からず(より難関な)自家製天然酵母のパン作りに進めたが、パン作りのコツが掴める様になると単に自分の技量が不十分(下手)なだけだった事が分かってくる。ここではイーストの臭いを抑えるコツを記載する。
*以下単純に「イースト」と記載している箇所は「インスタントドライイースト」を指す。
最初に使ったスーパーカメリヤのイースト
スーパーでもどこでも買える比較的安価なイースト(インスタントドライイースト)はやっぱりこのスーパーカメリヤになるだろう。安定した発酵が期待出来る。私も最初のパン作りから使ったが、パンの種類によってはイースト臭が残るのが気になる様になった。今思えば単に自分の腕が未熟でイーストを正しく使いこなせていなかっただけなのだが、これをきっかけに酵母を色々と勉強する事になった。
*この記事を書いたモチベーションとして、スーパーカメリヤは愛好者も多く優れたイーストなのに「カメリヤ 臭い」で検索結果のTOP近くに出てくる事への違和感と、自分なりに実証した認識を伝えたいところにある。
イースト(酵母)の整理
ここでパン作りに使える酵母を整理する。
①インスタントドライイースト
生地に直接混ぜるだけで使える最も簡単なイースト(酵母)。保存期間が長く、発酵力も強く、発酵時間も短いと長所が多く世界中で主流となっているパン酵母。その反面イースト臭が最も強いとされるがパン屋さんに入った時のいい匂いとも言える。
②ドライイースト
アクティブドライイーストとも呼ばれ、40℃のぬるま湯を用いた予備発酵が必要なイースト。市場にあまり出回っていない。イースト臭は緩和される。
③生イースト
固形のイースト。イーストで発酵させた生地を水分コントロールしたものでプロ御用達。欠点がほとんどなくイースト臭も少ないが、日持ちしないため一般の方では使い切れないのが唯一の欠点。
④市販の天然酵母
メーカーが昔ながらの手法などを用いて作る酵母。品種によって形状は上記①②③のいずれかを取る。いわゆるインスタントドライイーストの臭いはほぼ無くなるが別の発酵臭がするものが多く、好みが別れる。
⑤自家製天然酵母
昔々の物語(数千年前)。放置していた小麦粉に水がかかりブクブクと発酵したものを捨てずに「ひょっとしたら食べられるのではないか?」と考えて焼いたら美味しかったのが始まりと言われている。ただし相当酸っぱいパンだっとは思うが、当時は現在と味覚も異なり徐々に広まっていったものと思われる。
天然に存在する菌をそのまま扱うので、酵母菌以外にも乳酸菌、酢酸菌、カビなど有害菌も同時に増えるが、優勢に立った菌が生地の中で一人勝ちする特性があるため、酵母菌が優勢になる条件を与えることで制御が可能になる。
自宅で自家製酵母を育てる場合、リンゴやイチゴなどの果物、あるいはレーズンの様な乾燥果実などに水を加えて、果物の表皮に付着している野生酵母菌を増殖させる「液種」を最初に作り、液種あるいはそれを元に作る元種を用いてパンを発酵させる方法がオススメ。もちろん昔ながらの最初から水と小麦粉、塩だけを用いた発酵も可能だが相当に酵母に慣れた方限定と考えた方が良い。
イーストの匂いは全くなく、代わりにベースとなった果実の香り、野生株の酵母菌が産出する香り、残留する乳酸菌などの他の菌から産出される成分も加わることで、何とも言えない複合的な良い香りになる(通常)。また乳酸菌、酢酸菌(酵母菌が産出したアルコールを栄養源とする)が産出する酸味が加わることで味が深まる。なお良いコンディションの自家製酵母の場合、ほとんど酸味は感じられない(いわゆる酸っぱいパンにならない)。
イースト臭の削減方法
以下イーストの匂いを削減する方法を5つ列挙する(下に行くほどお勧め)
①イーストを使わない
上記の様に市販天然酵母、自家製酵母を使えば当然ながらインスタントドライイーストの匂いは消失する。ただし市販の天然酵母からは別の発酵臭がするし、自家製酵母は色々と手間がかかる。
長所:イースト臭は消失する
短所:他の発酵臭がする。自家製酵母は色々と手間がかかる
ブログやYoutubeで自家製天然酵母はブームと言える程の人気があり、手間がかかっても美味しいパンを作りたい、食べたいという方には向いていると思う。特にバゲットやカンパーニュなどシンプルな味を楽しむパンに向いている。しかし手間がかかり、最初は失敗の連続だ。もし時間があれば私の自家製酵母の記事も参照願いたい。
②イーストの種類を変える
10種類ほどある市販のインスタントドライイーストでも匂いの強弱や違いがあるようだ。ただし賞味期限や発酵温度など正しく守って使用する範囲ではそれほどの差はなく各イーストの個性と言っても良いレベルだ。私の場合、赤サフとスーパーカメリヤを使っている。
長所:自分好みの香りのイーストが見つかる(かもしれない)
短所:期待する程の差は無い(正しく作った場合)
色々とレビューを見る限り、赤サフの人気が高いようだ。但しAmazonのレビューやその他評価を見るとわかるが、スーパーカメリヤや他のインスタントドライイーストも☆4.4前後の高評価を得ており、人によって「**が臭い」あるいは「▲▲は自分に合う」など意見はバラバラだ。結局のところ各イーストの発酵臭が自分好みか否かの問題であり、各商品を色々試すのも良いだろう。但し状態の良くないイーストを使ったり発酵が正しくなかったりするとどのイーストでも不快なイースト臭がする点に注意。
③予備発酵する
イーストの余分な匂いを抜く方法として(本来は不要な)予備発酵がある。予備発酵することでイーストが最初に吐き出す強い匂いのガスが事前に抜けることでパンのイースト臭が減少し、イーストが活性化するため使用量も減らせる(例:3gを1gに減量しても十分発酵する)。但しイーストを使ったパンの匂いが好きな方にはお勧めしない。また40℃のぬるま湯と液体測定用温度計を用いた事前発酵が必要。
長所:イースト臭がかなり減少する。イーストが少量で済む
短所:事前準備が必要。人によってはパンの匂いが物足りない
- 手順
40℃のぬるま湯(20g)を用意する。保温が難しい場合はもう少し高い温度でも良いが45℃を超えないこと。45℃を超えるとイースト菌が死滅する場合がある。
10分ほど経過してブクブクになったら生地に投入する
④イーストの使用量を減らす(長時間発酵)
プロもよく使う手で、長時間発酵を行ってイーストの使用量を減らす方法がある。イーストは細胞分裂で増加することからイーストの量を減らすと当然ながら分裂回数を増やさなければならないので発酵時間がかかる。しかしその長い発酵時間の間にイースト臭がほとんど消失し、代わりに小麦粉が熟成してパン本来の香りと旨みを引き出せる優れた方法である。
長所:イースト臭がほぼ消失する。小麦粉の熟成で香りと旨みが引き出せる。
短所:発酵時間がかかる。イーストが中々減らない。一回当たり0.2gしか使わなければ3gの小分けパッケージでもパンが15回分焼ける事になり、500gパッケージなどはとても使い切れなくなる。
通常3gほど使用するイーストを場合によっては0.1g以下(1/50程度)しか使わない場合もあり計量が難しくなる点と、発酵に3〜24時間かかる点が欠点になる。計量が難しい場合は老麺(熟成させた生地)を作って微量計測の代わりとする事がある。またイーストの量を極端に減らさなければ8時間前後の扱い易い発酵時間となり、例えば寝る前に仕込んで朝になったら一次発酵完了、という自然な作業も可能である。ホームベーカリーで焼く場合は天然酵母コースを選べば発酵時間を長く取れる。
⑤正しくイーストを使う(本命)
色々と記載したが、正しくイーストを使えば手早くパンが作れる上、本来のパンらしい美味な匂いを楽しめてイースト臭は気にならないと思う。
長所:ムダがなく理想的。イーストの良い香りを楽しめる
短所:無し
正しいイーストの使い方(それぞれ守らないとイースト臭が増える)
- 賞味期限内のイーストを使用する
- 封を切ったら冷蔵庫に保管して1〜2週間以内に使い切る
- ベーカーズパーセントでイーストを1%あるいはそれ以下の量にする(小麦粉250gならイーストは2.5g以下)
- 生地材料の最後にイーストを投入する(砂糖や塩から離す)
- 正しい温度範囲で発酵させる(7℃〜40℃)
- 一次発酵をしっかり行う(生地を2倍まで増やす&フィンガーチェックで指穴確認)
- 一次発酵、二次発酵ともに長過ぎない(過発酵させない)
もちろん各個人の臭いに対する感受性は異なるため正しい方法でも臭いが気になる方はいると思う。その場合は前記①〜④を試して欲しい。