1.漢字の読み
SNSなどで時々日本語の難しさが議論になることを見かける。特に外人にとっては日本語は易しさと難しさがそれぞれある様だ。
易しさとしては、母音が5つしかない、中国語の様な四声がない(フラットな発音)、ひらがなまたはカタカナだけなら覚える言葉も最少で済むという意見だ。
反対に難しさを指摘する声は圧倒的に漢字だ。通常の読み書きで2000程度の漢字を使うそうだが、この漢字に皆苦戦するそうだ。しかし外人が中国語を使う場合も同様の難易度に思うが、どっこい違うようでアメリカ人にとって最難関言語が日本語となっている。
なぜ同じ様な漢字を使う日本語が中国語と比較してそんなに難しいのか。この連載記事では順に日本語の難しさ(面白さ)を取り上げてみたい。
一つの漢字に複数の音読みがある
まず音読みから考察する。音読みは中国の発音をそのまま輸入したものだ。しかし日本には一つの漢字に複数の音読みが存在する
中国語と日本語の最大の違いはここだ。中国ではごく一部の例外を除き、一つの漢字は一つの読みしか存在しない。例えば北は「ベイ」で京は「ジン」、合わせて北京は「ベイジン」と発音し、それ以外の読みは存在しない。
しかし・・ここで変だなと感じる方も多いはず。そう、北京は日本では「ペキン」と発音するからだ。しかもこの「ペ」も「キン」も日本で使う漢字の通常の読みでは存在しないので中国由来の音読みであることは明白だ。
実は中国は4,000年の歴史と称しているが、戦争で何度も納める国が変わっており、その各国毎に同じ漢字を使うものの、漢字の読みが違っているのだ。
例えば東京は「トウ」「キョウ」と読む。しかし「京」は京浜線などで使われる様に「ケイ」とも読まれる。日本に漢字が輸入された時の国の読み方の違いで、古い順から、呉音、漢音、唐音、華音(現在中国語の読み)と4種類ある。これを各国毎に整理してみよう
- 東の読み方
- トウ 呉音
- トウ 漢音
- トン 唐音(比較的近年で麻雀の読みなどで使われる)
ドン 華音(現在の中国語の読みで日本では使われない)
京の読み方
- キョウ 呉音
- ケイ 漢音
- キン 唐音(比較的近年で麻雀の読みなどで使われる)
- ジン 華音(現在の中国語の読みで日本では使われない)
漢字の訓読み
日本に伝わった時代別で漢字の音読みが複数存在することを述べたが、さらに日本での漢字の読み方に訓読みがある。少し歴史的背景を整理して考察してみよう。
まず紀元前の頃から日本には日本語の原点とする言葉:大和言葉があったが、文字は持たずすべて口伝で伝える状態であった。その後中国から漢字が入ってくると、その漢字の音読みを利用して、大和言葉のあいうえおの日本語に合うように漢字を使い始めた。
例えば、以下の様になる。
- きょうはいいてんきですごしやすい(現代国語)
- けふはいヽてむきてすこしやすい(旧仮名遣い→連載で後日説明)
- 計不波以ヽ帝武畿天春古志也寸移
これを万葉仮名と呼び、漢字のまま書いてその音を50音の表記として利用した。例えば「え」の場合は「江」「衣」のいずれか、「く」の場合は「久」「九」「具」など比較的自由に音読みが一致する漢字を選んで記載していた。「よろしく」は「夜露四九」とも「与路志具」とも書けるし、それで意思が伝わっていた(変体仮名→連載で後日説明)。
なお、現代の日本語が英語の言葉を「テレビ」とカタカナ表記する様に、当時の新しい言葉として中国語(音読み)が大和言葉に加わった。
また次第に元々大和言葉にある言葉と意味が一致する漢字に大和言葉の読みを当てる様にもなった。「山」→「さん」→「やま」。これが訓読みと呼ばれるものだ。
結果として当時書かれた文章には、漢字が現代のようにそのまま音読み/訓読みで使われる物と、上記の万葉仮名が入り混じる和様式となった。例えば、「雲の過ぎゆく過程を見る」の場合なら「雲乃春支由久過程遠美留」の様に、音読みや訓読みする漢字と万葉仮名が混じって記載される。
結果として「東」の読みに以下の訓読みが追加される。
- 東の読み方
- ひがし 訓読み
- あずま 訓読み
- こち、はる、はじめ、ひで・・・訓読み(人名)
- トウ 呉音
- トウ 漢音
- トン 唐音(比較的近年で麻雀の読みなどで使われる)
- ドン 華音(現在の中国語の読みで日本では使われない)
この様に複数の読みが多数存在する日本語が中国語よりも難解なことも理解出来てくる。例文として以下を見てみよう。
- 今日は1月1日元旦の日曜日で祝日、日本晴れの日です
- 7つの日がすべて読みが異なる
- ふ(きょう→けふ)訓読み
- たち 訓読み
- ニチ 呉音
- び 訓読み
- ジツ 漢音
- に 訓読み
- ひ 訓読み
- 他に、か(三日)、す(明日)などの訓読み
この「日」の読み分けは外人に取って相当に難しいようだ。
さて、次の記事では字体について述べる。